坂本企画19

『娘たちのうたわない歌』

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──それは、もう一度戦ってみる物語。確かめるために。

　その娘たちは「歌」を知らない。そのように生み出され、そのように教え
られ、そのように戦地へ送り出されるからである。あらそう人々を諌めるた
めに。それは、その娘たちを生み出した者達の、かねてからの願いであっ
た。
　その娘たちは、生まれながらに、枯れている。でなければ、その娘たちを
生み出した者たちを脅かすからである。その娘たちのほとんどは、そのこと
に疑問を抱かず死んでゆく。それは避けられないことである。そのように作
られなければ、その娘たちはやがて野蛮になり、その娘たちの敵と同じもの
となる。その娘たちを生み出した者達はそれを知っているからである。
　その娘たち、それも、その娘たちの中でもとびきり生き残った娘たちは
「ノラ」と出会う。二股の尾を持つ「ノラ」は、その娘たちの知らない「歌」
を知っている。歌を知った娘たちは硝煙弾雨の只中で、生きる意味を、娘た
ち自身に問い直す。教えてもらえなかった「歌」、禁じられた「あらそい」
は、娘たちにとって最も必要なものではなかったか。
　娘たちはやがて、すべての「歌」を取り戻すために自らの「あらそい」を
始める。とびきり生き延びた娘たちは、禁じられていたのにもかかわらず
「あらそう」術に長けている。「ノラ」の教えの甲斐もあって、剥奪されて
いたものを取り戻していく娘たちは、ついにこの世の中に、娘たちのための
場所を切り取ろうとする。「ノラ」は忠告する。それは娘たちを生み出した
者達が一番恐れていることだと。
　娘たちは、無抵抗無所属の証であった白い旗を、泥で汚し、血で染め、涙
を塗り、履き古したブーツの音も高らかに進んでゆく。